組換えタンパク質発現とは?
タンパク質発現とは、遺伝子の情報がmRNA(メッセンジャーRNA)に転写され、その後リボソームで翻訳されてタンパク質が合成される一連のプロセスです。具体的に、以下のステップが含まれます。転写:DNAの遺伝情報がmRNAにコピーされます。この過程は、細胞核内で行われます。
翻訳:mRNAがリボソームに結合し、対応するアミノ酸が順番に結合してポリペプチド鎖が形成されます。この過程は、細胞質で行われます。
翻訳後修飾:合成されたポリペプチド鎖は適切に折りたたまれ、必要に応じて化学修飾(糖鎖付加、リン酸化など)を受けて機能的なタンパク質になります。
組換えタンパク質発現は、特定のタンパク質を人工的に発現するための技術です。大腸菌、酵母、昆虫細胞、哺乳類細胞および無細胞発現系などさまざまな発現系が存在し、目的タンパク質の種類や使用用途に合わせて発現系を選択する必要があります。
組換えタンパク質発現系の比較表
発現系 | 利点 | 欠点 |
大腸菌 |
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酵母 |
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昆虫細胞 |
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哺乳類細胞 |
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無細胞発現系 |
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各発現系の使用用途とお勧めの製品
大腸菌:大量のタンパク質を迅速かつ低コストで生産したい場合、まず検討される発現系です。
研究用タンパク質の生産、酵素の工業利用、タンパク質の改変実験などに広く利用されます。
コールドショック発現系は、培養液を15℃に冷却するだけで効率よく発現を誘導できるシステムで、従来の大腸菌発現系に比べ、生産効率と可溶性発現が向上します。
酵母:
翻訳後修飾が必要な真核生物由来のタンパク質の発現に適しています。
医薬品やワクチン抗原の生産、真核細胞由来のタンパク質の構造解析などに利用されます。
昆虫細胞:
複雑な構造や翻訳後修飾が必要な真核生物由来のタンパク質の発現に有用です。膜タンパク質など複雑なタンパク質や、医薬品候補タンパク質の発現に使用されます。
BacPAK バキュロウイルス発現システムは、昆虫細胞(Sf21細胞)を使用して高レベルで組換えタンパク質を発現させるシステムです。
哺乳類細胞:
ヒト由来の高機能、活性型タンパク質の発現に適しており、バイオ医薬品、抗体医薬品の製造に広く利用されています。
pHEK293 Ultra Expression Vectorは、HEK293系細胞で高発現を実現するベクターで、従来のCMVプロモーターを用いた発現系と比較して、高いタンパク質生産が可能な製品です。
無細胞発現系:
短時間でハイスループットなタンパク質生産が求められる場合に有用です。
構造解析用のタンパク質の調製、細胞毒性の高いタンパク質の合成、タンパク質のスクリーニングなどに利用されます。
Human Cell-Free Protein Expression Systemは、ヒト細胞株由来の細胞抽出液を利用した無細胞タンパク質合成システムで、IRES配列の利用、翻訳増強因子の効果により合成レベルが向上しています。
まとめ
組換えタンパク質発現は、タンパク質の機能解析や研究用製品、工業用製品、医薬品の開発など、さまざまな用途で活用されている重要な技術です。目的や用途にあわせて最適な発現系を選択することが推奨されます。1 件