2025年6月16日 更新

【初心者向け】TAクローニングをわかりやすく解説

TAクローニングを初心者に向けてわかりやすく解説します。

TAクローニングとは?

TAクローニング(TA Cloning)は、分子生物学における遺伝子操作技術の一つで、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で増幅されたDNA断片を簡便にクローニングする方法です。この技術は、PCR産物の末端にデオキシアデノシン(dA)が一塩基付加されることを利用して、3’末端にデオキシチミジン(dT)を一塩基付加したTベクターに挿入することで行われます。この方法により、目的DNA断片を迅速かつ効率的にクローニングすることが可能です。

TAクローニングの基本的な流れ

インサートDNAの調製: Taq DNAポリメラーゼなどPCR産物の3’末端にdAを付加するPCR酵素を用いて目的のDNA断片を増幅します。PrimeSTARシリーズなどPCR産物が平滑末端となるPCR酵素を用いる場合は、増幅産物の3’末端にdAを付加する必要があります。

ベクターの準備:3’末端にdTを一塩基付加したTベクター(T-Vector pMD20T-Vetor pMD19 (Simple)など)を用意します。

ライゲーション反応:インサートDNA(PCR産物)とTベクターを混合し、ライゲーション反応を行います。インサートDNAのdA オーバーハングとベクターの dTオーバーハングを相補的に結合します。

形質転換:ライゲーション反応後の溶液を大腸菌コンピテントセルに導入し、形質転換を行います。

コロニー選択:LB選択プレート(抗生物質、X-Gal、IPTGを含む)で、コロニーの青/白判定を行います。白いコロニーが候補になります。

コロニーPCR:プレート上の白いコロニーを少量掻きとり、コロニーPCRを行います。PCR反応液の一部を用いてアガロース電気泳動を行い、インサートの有無を確認します。

TAクローニングは、初心者にとって取り組みやすい技術であり、迅速かつ効率的に遺伝子クローニングを行うことができます。

注意点:PCR酵素の種類と末端形状

PCR酵素の種類と末端形状:PCR酵素は大きく2つのタイプに分けられます。Taq DNA PolymeraseをはじめとするPol I型(family A)酵素と、Pfu DNA Polymeraseに代表されるα型(family B)酵素です。
Pol I型(family A)酵素のPCR産物は、3ʼ末端にデオキシアデノシン(dA)が一塩基付加されているので、PCR産物をそのままTAクローニングに利用可能です。
α型(family B)酵素のPCR産物は平滑末端になっており、そのままではTAクローニングに使用できません。平滑末端のPCR産物を TAクローニングに用いる場合は、3’末端にdAを付加する必要があるので、dAを付加する試薬が含まれたMighty TA-cloning Reagent Set for PrimeSTARをご利用ください。

PCR酵素のタイプ Pol I型
(family A)
α型
(family B)
増幅産物の3ʼ末端の形状 dAが付加される
(TAクローニング可)
平滑末端
酵素名 TaKaRa Ex Taq
TaKaRa LA Taq
TaKaRa Taq
MightyAmpシリーズ
EmeraldAmp MAX
SapphireAmp
PrimeSTARシリーズ
Ex Premierシリーズ
Tks Gflex

必要な材料と機器

PCR酵素:TaKaRa Ex Taq Hot Start Versionなど

Tベクター:TaKaRa T-Vector pMD20T-Vetor pMD19 (Simple)
形質転換体の青/白選択が可能なTベクターです。

Mighty TA-cloning Kit:Tベクターとライゲーション試薬が含まれます。

Mighty TA-cloning Reagent Set for PrimeSTAR:Tベクター、ライゲーション試薬と平滑末端のPCR産物の3’末端にdAを付加する試薬が含まれます。

コンピテントセル:E. coli HST08 Premium Competent CellsE. coli JM109 Competent CellsE. coli DH5α Competent Cellsなど、青/白選択が可能なクローニング用のコンピテントセルを使用します。

LBプレート:抗生物質(アンピシリン)、X-Gal、IPTGを添加したLBプレートを用意します。
E. coli HST08 Premium Competent Cells、E. coli DH5α Competent Cellsの場合は不要

PCR装置:インサートDNAの増幅や、コロニーPCRに使用します。
Clontech PCR Thermal Cycler GP

アガロース電気泳動装置、電気泳動用試薬:PCR産物の確認に使用します。
Mupid-2plus
アガロース、DNAマーカー 等

インキュベーター:形質転換されたコンピテントセルの培養を行います。

コロニーPCR:EmeraldAmp MAX PCR Master Mix、プライマー 等

よくあるトラブルとその対処法

TAクローニングで目的のクローンが得られない場合、いくつかの原因が考えられます。以下によくあるトラブルとその対処法(トラブルシューティング)をまとめました。

原因:PCR産物にdAのオーバーハングがない。
対処法:TaKaRa Ex Taqなど、dAが付加されるPCR酵素を使用する。
PrimeSTARシリーズなど、平滑末端になるPCR酵素を使用した場合は、dAを付加する操作を行う。

原因:ライゲーション反応がうまくいっていない。
対処法:Tベクターとインサートのモル比を見直す。
インサートDNA(PCR産物)の純度が低い場合、再精製を行う。

原因:形質転換がうまくいっていない。
対処法:プレートの抗生物質(アンピシリンなど)の濃度が適切かを確認する。
コンピテントセルの効率を確認する。高効率のコンピテントセルを使用する。(>108 cfu/μg)

原因:インサートのサイズが大きい。(5 kb以上)
対処法:長鎖のPCR産物(5 kb以上)の場合、TAクローニング効率が低下するため、平滑末端クローニングをお勧めします。その場合、末端平滑化およびリン酸化のための簡便な前処理用試薬を含むMighty Cloning Reagent Set (Blunt End)の使用が便利です。

クローニングの最新技術

TAクローニングは、分子生物学の分野で広く利用されている技術ですが、さらに効率的で便利な最新のクローニング技術として「In-Fusionクローニング」が注目されています。この技術は、使用する任意のベクターの末端配列を利用してクローニングを行うため、あらゆるベクターが使用でき、余分な配列が一切付加されずにクローニングを行うことができる優れた手法です。
In-Fusionクローニングは、TA クローニングではできない複数DNA断片を一度に挿入するマルチクローニングやディレクショナルクローニングも可能です。この技術を取り入れることで、より効率的に遺伝子クローニングを行うことが可能です。

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