TAクローニングとは?
TAクローニング(TA Cloning)は、分子生物学における遺伝子操作技術の一つで、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で増幅されたDNA断片を簡便にクローニングする方法です。この技術は、PCR産物の末端にデオキシアデノシン(dA)が一塩基付加されることを利用して、3’末端にデオキシチミジン(dT)を一塩基付加したTベクターに挿入することで行われます。この方法により、目的DNA断片を迅速かつ効率的にクローニングすることが可能です。TAクローニングの基本的な流れ
インサートDNAの調製: Taq DNAポリメラーゼなどPCR産物の3’末端にdAを付加するPCR酵素を用いて目的のDNA断片を増幅します。PrimeSTARシリーズなどPCR産物が平滑末端となるPCR酵素を用いる場合は、増幅産物の3’末端にdAを付加する必要があります。ベクターの準備:3’末端にdTを一塩基付加したTベクター(T-Vector pMD20、T-Vetor pMD19 (Simple)など)を用意します。
ライゲーション反応:インサートDNA(PCR産物)とTベクターを混合し、ライゲーション反応を行います。インサートDNAのdA オーバーハングとベクターの dTオーバーハングを相補的に結合します。
形質転換:ライゲーション反応後の溶液を大腸菌コンピテントセルに導入し、形質転換を行います。
コロニー選択:LB選択プレート(抗生物質、X-Gal、IPTGを含む)で、コロニーの青/白判定を行います。白いコロニーが候補になります。
コロニーPCR:プレート上の白いコロニーを少量掻きとり、コロニーPCRを行います。PCR反応液の一部を用いてアガロース電気泳動を行い、インサートの有無を確認します。
TAクローニングは、初心者にとって取り組みやすい技術であり、迅速かつ効率的に遺伝子クローニングを行うことができます。
注意点:PCR酵素の種類と末端形状
PCR酵素の種類と末端形状:PCR酵素は大きく2つのタイプに分けられます。Taq DNA PolymeraseをはじめとするPol I型(family A)酵素と、Pfu DNA Polymeraseに代表されるα型(family B)酵素です。Pol I型(family A)酵素のPCR産物は、3ʼ末端にデオキシアデノシン(dA)が一塩基付加されているので、PCR産物をそのままTAクローニングに利用可能です。
α型(family B)酵素のPCR産物は平滑末端になっており、そのままではTAクローニングに使用できません。平滑末端のPCR産物を TAクローニングに用いる場合は、3’末端にdAを付加する必要があるので、dAを付加する試薬が含まれたMighty TA-cloning Reagent Set for PrimeSTARをご利用ください。
PCR酵素のタイプ | Pol I型 (family A)
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α型 (family B)
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増幅産物の3ʼ末端の形状 | dAが付加される (TAクローニング可)
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平滑末端 |
酵素名 | TaKaRa Ex Taq TaKaRa LA Taq
TaKaRa Taq
MightyAmpシリーズ
EmeraldAmp MAX
SapphireAmp
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PrimeSTARシリーズ Ex Premierシリーズ Tks Gflex
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必要な材料と機器
PCR酵素:TaKaRa Ex Taq Hot Start VersionなどTベクター:TaKaRa T-Vector pMD20、T-Vetor pMD19 (Simple)。
形質転換体の青/白選択が可能なTベクターです。
Mighty TA-cloning Kit:Tベクターとライゲーション試薬が含まれます。
Mighty TA-cloning Reagent Set for PrimeSTAR:Tベクター、ライゲーション試薬と平滑末端のPCR産物の3’末端にdAを付加する試薬が含まれます。
コンピテントセル:E. coli HST08 Premium Competent Cells、E. coli JM109 Competent Cells、E. coli DH5α Competent Cellsなど、青/白選択が可能なクローニング用のコンピテントセルを使用します。
LBプレート:抗生物質(アンピシリン)、X-Gal、IPTG*を添加したLBプレートを用意します。
*E. coli HST08 Premium Competent Cells、E. coli DH5α Competent Cellsの場合は不要
PCR装置:インサートDNAの増幅や、コロニーPCRに使用します。
Clontech PCR Thermal Cycler GP等
アガロース電気泳動装置、電気泳動用試薬:PCR産物の確認に使用します。
Mupid-2plus等
アガロース、DNAマーカー 等
インキュベーター:形質転換されたコンピテントセルの培養を行います。
コロニーPCR:EmeraldAmp MAX PCR Master Mix、プライマー 等
よくあるトラブルとその対処法
TAクローニングで目的のクローンが得られない場合、いくつかの原因が考えられます。以下によくあるトラブルとその対処法(トラブルシューティング)をまとめました。原因:PCR産物にdAのオーバーハングがない。
対処法:TaKaRa Ex Taqなど、dAが付加されるPCR酵素を使用する。
PrimeSTARシリーズなど、平滑末端になるPCR酵素を使用した場合は、dAを付加する操作を行う。
原因:ライゲーション反応がうまくいっていない。
対処法:Tベクターとインサートのモル比を見直す。
インサートDNA(PCR産物)の純度が低い場合、再精製を行う。
原因:形質転換がうまくいっていない。
対処法:プレートの抗生物質(アンピシリンなど)の濃度が適切かを確認する。
コンピテントセルの効率を確認する。高効率のコンピテントセルを使用する。(>108 cfu/μg)
原因:インサートのサイズが大きい。(5 kb以上)
対処法:長鎖のPCR産物(5 kb以上)の場合、TAクローニング効率が低下するため、平滑末端クローニングをお勧めします。その場合、末端平滑化およびリン酸化のための簡便な前処理用試薬を含むMighty Cloning Reagent Set (Blunt End)の使用が便利です。
クローニングの最新技術
TAクローニングは、分子生物学の分野で広く利用されている技術ですが、さらに効率的で便利な最新のクローニング技術として「In-Fusionクローニング」が注目されています。この技術は、使用する任意のベクターの末端配列を利用してクローニングを行うため、あらゆるベクターが使用でき、余分な配列が一切付加されずにクローニングを行うことができる優れた手法です。In-Fusionクローニングは、TA クローニングではできない複数DNA断片を一度に挿入するマルチクローニングやディレクショナルクローニングも可能です。この技術を取り入れることで、より効率的に遺伝子クローニングを行うことが可能です。
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