2021年3月31日 更新

iPS細胞を利用した疾患モデルの構築に適したツールとは?

感染症、癌、神経変性疾患など、様々な疾患メカニズムの理解を深め、新たな治療法の開発や創薬につなげることを目的として、世界規模で数えきれないほどの医療研究が行われています。このような目的を達成するには、信頼度が高い疾患モデルを作製することが極めて重要です。従来、動物モデルを用いてヒト疾患を模倣していましたが、遺伝子的な種間差があると、それがどれだけ小さな差であっても、結果を正確に反映できない場合が多々ありました。

近年、健康な人と患者のいずれの体細胞も利用可能となったこともあり、疾患モデル研究の理想的な選択肢として、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)が注目されています。hiPSCをCRISPR/Cas9でゲノム編集すれば、発症機序の解明を目的として疾患の原因と推定される遺伝子変異を健康な細胞に導入したり、治療法開発を目的として疾患細胞の遺伝子変異を修復したり、新薬の大規模スクリーニングを実施するなど、様々な実験が可能になります。

ゲノム編集したhiPSCからの疾患モデル作製は、適切なゲノム編集とクローン集団の樹立を同時に成功させる必要があり、簡単な作業ではありません。しかし、自分で疾患モデルを構築する場合でも、疾患モデルの構築を外注する場合でも、使用可能な研究ツールは日々増え続けており、多くの選択肢があります。

疾患モデル作製の各開発段階において考慮すべき検討事項を以下にご説明します。
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1.初期増殖に用いる培養システム
一般的な二次元コロニー培養で増殖させたhiPSCの細胞集団は均質ではなく、コロニー中心部の細胞密度は高く、周辺部の細胞はサイズが大きく増殖性も高くなります。hiPSCにおける全体的な相同組換え効率は低いため、コロニー周辺部の形態を有する均質な細胞集団がコンフルエントの状態で得られれば、ゲノム編集の成功率は大きく上昇します。

最初のhiPSC培養時から、上記のような均質な細胞集団が得られる培養システムを選択してください。

2.正確なゲノム編集を行うためのCRISPR/Cas9
ゲノム編集に用いるCRISPR/Cas9は、プラスミド又はウイルスを利用した手法で導入することができますが、これらの手法では細胞内でCas9が長期発現し、オフターゲット作用や細胞毒性を生じる可能性が高くなる場合があります。細胞内におけるCas9の活性期間を制限するには、Cas9とsgRNAの複合体をリボヌクレオタンパク質としてエレクトロポレーションで高効率に導入する方法を強くお勧めします。これにより、必要な変異のみを細胞に導入するフットプリントフリーな編集が可能です。

ゲノム編集に関する他の懸念としては、sgRNAのデザインと、相同組換え修復(HDR)に用いるドナーテンプレートの種類があります。Cas9への結合性を向上させ、安定した複合体を作製し、効率の良い適切な編集を行うには、必ずsgRNA scaffoldの配列を最適化して使用してください。ノックイン実験において、二本鎖DNAテンプレートよりも毒性が低くランダムな組込みが少ないことが立証されている一本鎖DNAドナーテンプレートをHDRに使用することをお勧めします。


3.ゲノム編集した細胞集団のスクリーニング
ゲノム編集を行うと、野生型の細胞と標的部位が改変された細胞が混在した不均一な細胞集団が得られます。ここで、適切に編集されたクローンを特定するため、ハイスループットで効率的なスクリーニングを実施する必要があります。クローン細胞系はそれぞれ異なる速度で増殖するため、タイミングが極めて重要です。編集されたコロニーをできるだけ早く特定することで、その培養を容易にし、多能性を維持することができます。

次のステップとして、細胞集団から単一細胞を単離し、プレートの各ウェルに1細胞ずつ播種して正確なスクリーニングを行います。単一細胞の単離には、FACS又は限界希釈法を用いることが可能です。スクリーニングは高感度かつ高精度である必要がありますが、スピードや使いやすさも同じく重要な点です。蛍光法を用いたシステムであれば、編集されたクローンを容易に特定することができますし、合理化されたワークフロー、ハイスループットのプロトコールであれば、操作を最低限に抑え、全細胞集団を迅速に処理することができます。


4.単一細胞のクローニング及び拡大培養システム
ゲノム編集したhiPSCの単離とスクリーニングを終えたら、細胞を増殖させて、目的の変異を有するクローン細胞株を樹立します。従来の二次元培養法では、細胞死が起こったり、十分に増殖されない確率が高いため、個々の細胞の分離培養が難しい場合があります。また、増殖したとしても、得られたクローン細胞株で多能性が失われ、下流工程における分化能が失われている場合もあります。単一細胞の生存だけではなく、クローン細胞株への増殖や増殖時における多能性の維持が裏付けられた培養システムを選択することが極めて重要です。

hiPSCの培養時には必ず変異リスクがあり、培養時間が長いほどリスクは高くなります。よって、クローン細胞株の核型解析を行うことが重要です。継代回数が多くても、下流工程に適した正常で安定した核型が維持された細胞であることが理想です。

臨床や製薬(新薬スクリーニングを含む)における大規模な実験では、hiPSCを拡大培養できる能力が極めて重要となります。小規模プロジェクトと同様、ハイスループットの処理には均一な培養が必要であり、多能性や核型安定性を維持する高品質の細胞が作製可能であることが必要ですが、培養規模が大きくなると、培養間のばらつきが大きな懸念となります。


5.分化誘導システム
これまでの研究において、分化誘導プロトコールは心筋細胞、肝細胞、膵細胞及び神経細胞などの疾患に関連する細胞種に焦点が当てられており、その結果としてこれらの細胞種へ分化誘導するためのソリューションが販売されています。これらのソリューションの中から、厳密な管理下で段階的な分化を誘導し、胚発生を模倣することができる実証済みのプロトコールを選ぶことが大切です。分化誘導を行った後に得られる細胞集団では、目的の改変が組み込まれた完全分化細胞が90%以上含まれていることを目標とします。

疾患モデル構築において、上記の各ステップが適切に実行されれば、改変された分化細胞を用いて、新薬のスクリーニング、疾患メカニズムの解明、治療法の開発といった段階に進むことができます。


弊社HPの幹細胞・再生医療研究ガイド/疾患モデル研究では、hiPSCを用いた疾患モデリングに焦点を当て、“疾患モデリングの意義”、“疾患モデリングのアプローチ”、“疾患モデリングの課題とその解決策”の3つのテーマについて、関連技術情報と弊社お勧めの製品・サービスを交えながらご紹介しておりますので、是非ご覧ください。
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